身体に疲れがたまって来た頃、鍼灸師の辻村先生からメールが来ます。
「そろそろ調子が悪くなって来たんちゃう?」
辻村先生は、2年前に、ネパールの無医村にボランティアでご一緒させていただいた鍼灸師の先生です。
ネパール旅行が終わってからも毎月治療交換会をして下さっています。
身体が楽になるだけでなく、いろいろなことを教えてもらったり、アドバイスを頂いたりの時間で、私にとっては、深い気づきの場になっています。
先日の治療中の出来事です。
辻村先生は滅多にお灸をされません。
私はずっと、鍼とお灸は一つの治療体系の中にあると思って来たので、ほぼ鍼治療だけの先生の治療を不思議に思ってきました。
どうしてお灸をしないのですか?
「必要ないから。鍼で十分同じ効果が出せるから」
「鍼師と灸師は別の資格になってるし。
中国の古典にも江戸時代の文献にも今の日本のようなお灸の記述はないし。」
えー!そうなんですか?!
でも、松尾芭蕉の『おくのほそ道』に足三里に灸をすえるとでてきますよ。
「でも中国のお灸は、日本のようなお灸と違うし、棒灸(お線香の束くらいのもぐさを紙で包んだもので、皮膚の上から温める)か、灸頭鍼(刺している鍼の上をもぐさで温めるタイプの灸)やしなぁ」
ふーむ。
江戸時代には、鍼治療を受けられない人が、民間療法として鍼のかわりに直灸(じかきゅう)をするようになって今のようなお灸が広まったんですかね。
「そうかもしれんなぁ」
ヨモギを叩いてもぐさって作れますよね。
「作れるよ」
誰でも出来たお灸が、意外に効果が高く、明治になって、鍼灸の治療として組み立てたんですかね?
「きっとそうやわ」
なるほどー。
お灸が鍼の代替医療だったとしたら…なんだか今までにない考えにいろいろワクワクしてきます。
本当のところはわかりませんが、こんな風に話をしながら、仮説を立てたりして楽しんでいます。
私にとっては、この治療交換会は、本当にエキサイティングな時間なのです。
おかげで、私のマッサージ治療は、辻村先生の鍼治療をうけるようになり劇的に変化しました。
身体への本当の変化を必要としているのは、
凝り固まった奥のコリだけではなく、
表面を覆う皮膚、あるいはその下の筋膜の果たす役割の大きさを考えるようになりました。
辻村先生の鍼治療の刺激で変わっていく、私自身の身体から、このことを確信することが出来たのです。
『コリをもみほぐす』
長い間、この言葉に囚われて大切なことを見逃してきたように思います。
しかしながら、皮膚・筋膜へのアプローチを可能にするのは、深層のコリを感じ、探り当てることが出来るからなのです。
「ミニマムの刺激を治療に使えるのは、マックスの刺激を与えることが出来るから」だと、これも辻村先生から教えて頂きました。
そうであれば、今までの私の道のりは無駄ではなく、ミニマムな刺激の治療を可能にするために必要だったのだと思えます。
私の治療の旅はまだまだ先があるようです。
振り返ると未熟な自分に申し訳ない気持ちでいっぱいになりますが、懲りずにどうぞよろしくお願い致します。