9月24日に東洋療法推進大会が京都で開かれました。
大会のテーマは、
先端医療と伝統医療の融合〜未来への期待
として、
特別講演に、
「iPS細胞による網膜再生とロービジョンケア」と題して、理化学研究所 網膜再生医療研究開発プロジェクトの 仲泊聡先生がお話して下さいました。
『網膜は身体の外に突出している脳の1部と称され、その比較的単純な構築と体表面に突出している点が扱いやすく中枢神経のモデルとして使用されます。
最近まで障害されると再生しないと思われていた成体哺乳類網膜が、少なくとも傷害時に網膜神経細胞を生み出す力を持っているらしいことがわかってきました。このことは、成体網膜も神経回路網を再構築する能力を秘めているのかもしれないと期待させます。
この力を使って網膜の中からあるいは外から細胞を移植することによって疾患で失われた網膜機能を再生させたいこれが我々の目標です。しっかりした基礎と臨床の研究を積み重ね両者を踏まえた網膜再生研究を行いたいと思っています。』
これは先生が書かれた講演紹介の文章です。
網膜再生の話はとても専門的なので、少し長くなりますが、先生のレジュメをそのまま引用させていただきます。
『最近まで障害されると再生しないと思われていた網膜をiPS細胞を使って再生する試みが始まっています。
我々の研究チームが、現在行っている網膜移植治療はiPS細胞から作った網膜色素上皮と言う細胞を加齢黄斑変性という疾患の患者さんの目に手術的に植えるものです。2014年9月12日に世界で初めてこの治療を受けた患者さんの経過は順調で、現在さらに改良を施して別の患者さんへの治療が行われています。』
加齢黄斑変性というのは、見ようと焦点を当てたところが暗く見えたり、歪んで見える疾患で、網膜の中心部分である黄斑部が変性するのだそうです。
iPS細胞による再生治療では、網膜の最も上にある網膜色素上皮細胞を再生し、シート状に培養したものを移植するのだそうです。
臨床の実際にこの疾患が選ばれたのは、iPS細胞の移植は、癌化する危険性を伴うため、過去に癌化したことのないこの網膜色素上皮細胞が選ばれたのだそうです。
初めてのiPS細胞の人への移植から2年半が経過し、経過観察の要点は、癌化していないか、ということと、視力の向上を期待しているということでした。
現在の評価としては、
・拒否反応は起こっておらず、癌化していない。
・視力は検査では変わりないが、時に見える時もある。
・移植以前はVGSという注射により、視力を維持してきており、それをしないと検査で良くない結果を得たが、移植後は一度もその注射をしていないが悪化していない。
・形状的には移植以前より正常に近くなっている。
・移植片のある視細胞が働くようになってきている
ということで、治療としては今のところ大成功という評価なのだそうです。
しかしながら、このように再生医療を追求して行くことは、障害自体を否定していくことに繋がるのではないかと考えていると仲泊先生はおっしゃいます。
視力障害がある限りそれは良くないことで、視力障害の方の未来は見えるようになる未来が一番いいことだという考えに繋がるというのです。
見えないということにおける未来にも様々な選択肢・希望の持てる未来を提示していくことが大切なのだと。
また、再生医療が進めば、視力障害はなくなるかというとそうではなく、
『全く見えなかった人がわずかに見えるようになると言う事は十分可能ですが、普通の視力に戻る事はまだまだ当分実現しないと考えられています。この不十分な見え方により生活にまだ支障を残している状態を私たちはロービジョンと呼んでいます。
しかし、その違いは大きく、また得られたロービジョンをいかに生活の効率改善に結びつけるかということは、術後の患者さんの生活の質に大きく関わります。われわれは眼球に修正を加えるだけでなく情報提供と訓練によっても視覚障害者の社会参加を促すことを目指しています。本年12月1日に開業予定の神戸アイセンターでは、研究・眼科臨床はもとより二階のビジョンパークで視覚障害者支援のための啓発活動を行う予定です。』
とロービジョンケアについて、本当に熱く語って下さいました。単なる眼球の治療に終わらず、サロンのようなスペースを作り、情報提供・情報交換の場の提供をして行きたい。中でも視覚障害者の就労支援に特に力を注いで行きたいと考えていらっしゃるということでした。
それは
『就労は、視覚障害によって失うことの多い、所得、所属、生きがいの全てを同時に取り戻す可能性を秘めています。これを実現するには、見えない、見えにくいことで苦手となった、移動、読字、表情把握を何らかの方法でカバーしする必要があります。これまで、そのような状況に置かれた視覚障害者を支えてきた就労支援の代表が東洋療法であるあんま・マッサージ、鍼灸であるといえます。』
ということなのだそうです。
ほとんどが先生のレジュメからの引用になりました。
私が短くまとめるにはあまりに失礼な気がするくらい大きな情熱で、今年12月に開業予定の神戸アイセンターについて話して下さいましたので、そのまま引用させていただきました。
世界中が注目し、その権益を手にするために世界中が躍起になっている医療の最先端に関わり活躍されている先生が、目の前の患者様の奪われた未来や希望を支援する方法を考え、実行に移されているという事実に言葉を失うくらい驚きました。
iPS細胞の再生医療について、もっと具体的に聞きたくて質問まで考えていた私の頭をガツンとやられました。
目の前の人を幸せに出来るのは、本当は科学技術の進歩ではなく、それを支える心のありようなのだとしみじみ考えさせられる素晴らしいお話でした。
私たちマッサージ師は、患者様から、医師の診察や薬よりも、一番大切な時間だと言って頂けることがあります。
置かれている立場の厳しさがついつい頭をよぎり有り難いお言葉だけど、本当かなぁと素直に受け止められないこともよくあります。
でもiPS細胞の移植に携わる医師であっても、その治療を施しているという事実より患者様の実際的な問題の解決に向けたサポートを大切にしたいと考えられるのですから、実際的な力になれるということをもっと誇りに感じ、患者様の感謝の言葉を大切に受け取らなきゃいけないと深く感じさせていただいたお話でした。
目の前の問題解決に少しでも力になれる自分の手技を大切にし、益々精進したいと思います。
また、視覚障害者の就労支援の大きな一つとして保護されてきた我が業に理解を持ち、自分の果たせる役割を果たして行きたいと思いました。
仲泊先生、それから大会の準備をして下さった鍼灸マッサージ師の先生方に厚く御礼申し上げます。ありがとうございました。
また、いつか一度は必ず、神戸アイセンターを訪れたいと思います。