2017/2/20付け京都新聞に鍼灸マッサージ師の保険請求についての記事が載りました。
ニュースのポイント「知ってナットク」――マッサージ療養費の不正請求って?と題された、時事問題をわかりやすく解説する2人の会話調で書かれた記事です。
記事そのものは京都新聞のサイトで掲載されていないので、興味のある方は図書館で実際に読んでみてください。
私はあまりにひどい内容に悔しくて涙が出て来ました。
マッサージ施術が本当に医療保険として意義のあるものかと考える医師が多いのは残念ながら事実です。
しかしそれでも、この記事はあまりにも悪意に満ちているように思います。
見出しはこうです。
『高齢者訪問施術で荒稼ぎ 』
マッサージ師は本当に、高齢者訪問施術で荒稼ぎしているのでしょうか?
記事には『一定の条件を満たせば保険が使える』とあり、マッサージ師が保険を使うこと自体、何か問題があるように、私には読めます。
一定の条件も何も、医師が医療マッサージが必要という判断がない限り同意を得ることはできませんし、保険治療をすることは出来ません。マッサージ師は自由に保険を使える資格はないのです。
また、私たちの請求できる金額は、
一局所 285円。
左右上下肢・体幹の5局所が最高金額。
何局所請求できるかは、医師の判断によりますから、285円〜1425円。
これは患者さんの自己負担ではありません。10割の金額です。
私たちの保険は療養費払いと言って、普通の医療保険とは違い直接保険者に請求できる権利がありませんが、患者さんの便宜のために施術者が代わりに請求する方法がとられています。
この記事によると、
『その際、患者にわからないように金額を水増しするなどの不正があるのです』
とあります。
患者にわからないように不正する施術者がいるのは確かです。
しかし、これは療養費払いだからでしょうか?
医療保険の不正請求は私たちマッサージ師だけではありません。医師や薬剤師の不正使用のニュースを耳にすることもよくありますし、金額は桁違いで、療養費払いは関係ないように思います。そうではなく、個人の倫理観の欠落からくるものではないかと思います。
また『具体的な手口』については、『患者は 高齢者が大半を占めます。老人ホームへ出向いて施術する際の出張料を狙う手口です。』と書かれています。
ここまで読むと、老人ホームへ出向くこと自体が詐欺を働いているかのように受け取るのは私だけでしょうか?
老人ホームに入所した老人に訪問マッサージをすることはいけないことではないはずです。
そして実際の『手口』については
2キロ未満は1800円からの算定(2キロ増すごとに800円の加算なのです)になることは書かず、
『6キロから16キロが4000円余り』とわざと大きい数字に書き換えて、『悪質』でない業者も訪問施術自体が『公金を食い物に』していると読めるように書かれているように思います。
そして実際の不正の額ですが、『9年間で、5万5千件、約9億5千万』とかかれています。
9億と聞けばとても多いように思いますが、一年あたり1億円。
一件あたり約1万7千円の不正額です。不正はもちろんいけませんが、個人の倫理観を持たない悪質な業者があら稼ぎしている金額は、一件あたり1万7千円となります。
これが他の医療保険、介護保険サービス提供者と比べて突出した悪質さといえるのでしょうか?
また何を根拠に『氷山の一角』なのかこの記事には書かれていません。
悪質な業者がいるのは確かですが、往療費でしか請求できない施術料の低さがその温床になっているので、それを変えてもらいたいのは、誰よりも私たち自身です。施術費を適正な金額にし、往療費の加算をなくせば、マッサージ師の不正使用の可能性は限りなくゼロに近づくと思います。
最後に参考までに私たちの療養費が高いか安いかを比較していただきたいと思います。
私たちには、時間の制約はありません。個人個人の考えでしていますから、『悪質な』場合は10分というところもあるかもしれませんね。
私は30分を目安に施術しています。局所数、距離数により請求できる金額が違いますが、一件あたり、2085円〜4825円の間で請求をしています。
ちなみに、医師の訪問管理料は月二回で58600円。
月一回で12600円。
訪問看護師は一回9620円(訪問時間、疾病により加算されていきます)。
薬剤師の訪問管理料6500円。
訪問介護(ヘルパー)30分未満2540円。30分〜60分4020円。
時間や患者の状態で様々細かい取り決めがあり、この数字は参考程度と考えて下さい。
こういう記事の根底にはマッサージ施術は医療にとって不要であるという考えがあるのかと思います。
でも、自分が老人になったとき、不自由な身体を抱えて生きざるを得ないとき、一番欲しいものは何か考えてみて下さい。
私の個人的な考えですが、人は歳をとればお迎えが来るのは自然なことです。長生きが必ずしもいいわけではないと思います。人工透析や胃ろう、ガンの治療などの方が、立派な医療であっても無駄なお金になることもあるのではないかと思います。
ターミナルに入った方の多くが、どんな訪問よりもマッサージを待っていると言って下さいます。
また、血行を良くすることは感染症の危険性を遠ざけます。床擦れや尿路感染症、肺炎の治療代に比べれば、それを未然に防げれば、医療費の軽減に結びつくでしょう。
リハビリが医療費の高騰を防ぐ一番の方法であることは明らかであるにも関わらず、私たちはいつも【悪質な業者】扱いです。
高齢者の増加とともに、在宅サービスの業者も増加しています。増加に伴い、サービスの質がピンからキリまでなのは、私たちだけではないように思います。
本当に現場で起きていることを取材に来て欲しいです。
在宅生活を送る老人たちの本音は何処にあるか、私たちがこれほど、医師や保険者から厳しい対応を受けても消え去らないにはワケがあると思います。
身体に触れながら、30分の時間をともに過ごすことがする側にもされる側にも、他にはないものを生み出すように思います。
医師は長い時間をかけ、専門的な勉強をし、全ての責任を負う身で診療にあたられています。それは一番多くの診療報酬を得るに相応しいことだと思います。しかしわずかの時間でわかることには限りがあることもあります。
もちろん私たち自身が襟を正し、医師と連携の取れる体制を強化することや、倫理観を確かに持ち合わせていくことなど、様々な課題を抱えていることは確かです。
けれど、聴診器も当てない、触診もほとんどない医療の中に、薬やリハビリ・体操以外のマッサージという選択肢があることは、全ての人にとってステキな未来じゃないかと思います。